ディズニー映画

アト6特集「アナ雪が史上最高のミュージカル映画である理由」書き起こし

the eye-catching image:(C)2019 Disney All rights reserved

書き起こしました。公式動画がないものは、サントラなどで確認してみてください。
※できるだけそのままの言葉で書き起こすようにしていますが、読みやすいように変更・省略している部分があります。

「誰がなんと言おうとアナ雪は最高のミュージカル映画だ」特集 by 小室敬幸!

(中略)

宇多丸氏:アナ雪シリーズ、どんな点が小室さんからすると最高なんですか?

小室氏 :一般にアナ雪は特にミュージカル映画、音楽映画として見ると、名曲のつるべ打ちというか、本当に外れがないというようなことが良く言われるんですけども、実はただ歌として優れているというだけでなく、すごくクラシック音楽的な、ライトモティーフ的と言ってもいいかもしれませんけど、緻密な構成を持っているんだっていうのに気づいていただくと、より深く楽しめるので、そこを知ると最高だな、という感じですね。

宇多丸氏:それぞれの曲が個々で良いだけではなくて、ちゃんと相互で作用しあってるということですかね。この間の『スター・ウォーズ』特集でもあったけど。

小室氏 :はい。そして2も同様のことが言えるんですけども、1がですね、ミュージカル映画としては一つ欠点を抱えていまして。それを解消して、しかも1をさらに分厚くするような音楽的な演出もあるので、そのへんを今日は解説しようと思います。

宇多丸氏:1が抱えていたミュージカル映画としてのある難点というのもカバーしつつ、物語的にもそういう面がありましたけど、2を見ると音楽的にも1の厚みが増すという。楽しみだな。

(中略)

ミュージカルとはなにか

宇多丸氏:まずはミュージカルの歴史的な部分とか定義の部分とか、そのあたりを整理しておきましょうか。

小室氏:まず、どのような経緯でミュージカルができたのかをすごく簡単にお話ししようと思います。
大元を辿るといわゆるクラシックのオペラになるんですね。
これが1600年前後のイタリアでできたものなんです。ギリシャ悲劇をイタリアで復興させようとしたときに、全部のセリフを歌で歌っていたに違いないという勘違いをするんですよ。それによって全部のセリフを歌うようなオペラという新しいジャンルができたんです。

宇多丸氏:勘違いしちゃった!

小室氏:はい。ちなみにそれに関わってたのがガリレオ・ガリレイのお父さんとかですね。
で、ここでみなさんにご紹介したいのが、現代でもミュージカル嫌いの人って、なんでセリフ歌うの?リアリティないし嫌っていう人いるじゃないですか。これって今に始まった話じゃなくて、オペラができたときからあった問題なんだっていう説があってですね。
ギリシャ悲劇なので基本的には神話的世界観なんですね。所謂普通の人間が出てこないから、歌っててもおかしくなかったっていうのがあるんです。
じゃあ普通の人間が出てくるものでオペラ的なものって何があるかっていうと、最初は喜劇があったんです。コメディだったら、初期のディズニーなんかもそうですけど、歌っててもおかしくないということで、人間離れしたものか滑稽なものこそ、実はミュージカル、オペラの本流にあるもの、なんです。
それがイタリアから世界各地に広まっていって、その後19世紀半ばのフランスで、オペラの軽い版として、当初はコミック・オペラと言われていたんですけども、後にオペレッタと呼ばれる、喜歌劇と訳されるものが出てきて、
オペレッタがアメリカに行って色々な要素が混じって生まれたのがミュージカルなんです。
最初はミュージカル・コメディと呼んでたんですけどね。音楽喜劇だと。
そして1927年に初演された『ショウボート』、映画化もされてますけど、喜劇というよりも大河ドラマのような人間ドラマをミュージカルでやるようになった。ミュージカルシアターとか音楽劇場と呼ばれるものが出てきて。
そうすると、コメディもいろんなものがあるから、単に“ミュージカル”という部分だけ残ったという経緯なんです。

宇多丸氏:改めて考えてみると、なんで形容詞がジャンルの名前なんだ、おかしいな、っていうことだけど、そういう流れがあったんですね。

小室氏:そういう風にできたミュージカルですけど、所謂クラシックのオペラと何が違うのかというのは、厳密な定義は難しくて。オペラにもミュージカルにもさまざまなスタイルがあるので、一概に言えないんですね。
ミュージカル研究している人の研究書から引用すると、オペラは作曲家がダントツで一番偉いんです。有名なクラシックの作曲家が中心となって作ったジャンル。ミュージカルは作曲家、演出家、振付師、プロデューサーがある意味平等なんです。音楽も舞台を構成するひとつにすぎない、というところが圧倒的にオペラと違うんですね。オペラって基本的に演劇の文脈で語られないんですよ。でもミュージカルは演劇の文脈で語られるっていうのは、まさにその差なんですよね。

宇多丸氏:ビジュアル的な要素を強く感じますもんね。踊ったりとか。

小室氏 :オペラにそういうのが無いわけではないんですけど、物語を語る力になってるのはミュージカルの方なんですよ。

ディズニーとミュージカル

小室氏:じゃあミュージカルというものがアメリカでできて、なぜそれをウォルト・ディズニーがアニメに取り入れたのかという話なんですけれども。
ディズニーのアニメーションの中で最初にサウンドトラック方式で作ったのが『蒸気船ウィリー』ですね。
その翌年から『シリーシンフォニー』という、クラシック音楽にアニメーションをつけるという企画を始めるんですね。その中で最初に大成功したのが『三匹の子ぶた』なんですけれども。
アニメーションに音楽をつけることでアニメーションの表現がぐっと広がるということにウォルト・ディズニーは気づいて、それを長編映画でやりたい、ということで1937年に『白雪姫』が作られてたわけですね。
『白雪姫』はディズニー初の長編アニメーションであると同時に、ミュージカルというかちょっとオペラ的なアニメーションなんですよ。白雪姫役のお姉さんが、有名なマリア・カラスというオペラ歌手の先生なんです。そういう教育を受けた新人の子に白雪姫をやらせたりとか、白雪姫と王子様というのは完全にオペラ的なキャラクターなんですね。
と言いながらも、ウォルト・ディズニーは「突然歌いだす」と言われるのが本当に嫌だったんですって。
ウォルトはどういう風にしたかったかというと、この『白雪姫』のことをフィーチャー・シンフォニーと呼んでるんですよ。feature-film(長編映画)を文字ってこういう言い方をしていて、映画を交響曲みたいにしたかった。なのでワーグナーがオペラを交響曲にしようとしたように、映画全体を音楽で統一する、みたいなことをウォルト・ディズニーはやりたかったわけです。
それがその後のウォルト・ディズニー作品、特にプリンセス作品の中で脈々と息づいていて、時期によって特徴があるっていう感じなんですよね。
基本的に第一期というのは、あと『シンデレラ』と『眠れる森の美女』、要するにウォルトが生きてた頃の作品ですね。その中で注目したいのが『シンデレラ』。『シンデレラ』以外のものは基本的にディズニーの社員が曲を書いていたんです。『シンデレラ』は外部のヒットメーカーを連れてくるってことをやったので、それが第二期の先駆になってるんですね。
その後ウォルトが亡くなったりして、特に80年代がディズニーの低迷期って言われますけど、いよいよ第二期、1989年になると『リトル・マーメイド』が公開されて、ディズニールネッサンスなんてよく言われますね。このディズニー・ルネッサンスの最大の貢献者が作曲家のアラン・メンケンなわけです。
アラン・メンケンはどういう風に連れてこられたかというと、オフ・ブロードウェイっていう、ブロードウェイと言っても小さいもので、おもしろいものを実験的にやってるところで、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』を1982年に出して話題になった人なんです。あれで注目を集めたアラン・メンケンと作詞家のハワード・アシュマンというコンビを、『リトル・マーメイド』にそのまま連れてきたというわけです。

宇多丸氏:毛色としてはちょっとサブカル、アンダーグラウンドの人をメインストリームに連れてきた、その人がアラン・メンケンなんだ。

小室氏 :はい。そして、全く同じコンビで『美女と野獣』を作るんですけど、完成前にハワード・アシュマンが死んじゃうんですね。なので、『アラジン』ではハワード・アシュマンが書きかけたものと、ティム・ライスっていう作詞家を新しく呼んできました。この人はロイド・ウェバーと組んでた作詞家です。『ジーザス・クライスト・スーパースター』とか。
作曲家も作詞家も基本的にはミュージカルの世界で、しかも一番新しいところで成功した人を呼んでくる、っていうのを第二期でやって成功するんですね。
唯一の例外が、プリンセスに限定すると『ムーラン』なんですね。『ムーラン』はミュージカル系じゃない、『ライオン・キング』と一緒ですね。エルトン・ジョンみたいにヒット曲を出した人と劇伴を組み合わせるというので、これがちょっと例外的な作品なんですね。
そして『ムーラン』を作った翌年の1999年、ここで初めてディズニー・プリンセスというのが、公式な概念として出てくるんですよ。

宇多丸氏:それまではそういう括りをしてなかったんだ。

小室氏 :言われてたんでしょうけど、商品として展開するのがそこからなんですね。公式でこういう概念が出ると、誰が入って誰が入ってないっていうのがまた問題になってきます。

宇内アナ:ありましたね~。ムーランあんま入ってなかった気がします。

小室氏 :はい。でも今はちゃんと入ってます。
その後10年くらい空いて第三期に入ると、2つの傾向ができてきます。
ピクサー寄りのものとディズニー本流のものですね。
ピクサー寄りのものというのが『プリンセスと魔法のキス』『メリダとおそろしの森』。ジョン・ラセターの色が入ってるかどうかってことですね。
それに対してディズニー本流のものっていうのが『ラプンツェル』と『モアナと伝説の海』ですね。『ラプンツェル』がアラン・メンケン。『モアナと伝説の海』は『イン・ザ・ハイツ』や『ハミルトン』で成功したリン=マニュエル・ミランダを起用するという形になっていて、この流れを汲むのが『アナと雪の女王』なんですね。
『アベニューQ』と『ブック・オブ・モルモン』っていう2つの作品が話題になったロペス夫妻を起用して、これがいよいよアナ雪に繋がっていくという感じになってきます。

『アナと雪の女王』はただ名曲を並べただけじゃない!

(作品紹介略)

意外と重要な曲”Frozen Heart”

小室氏 :1作目は軽視されがちなんですけど、最初に歌われる曲が”Frozen Heart”という氷売りの職人たちが出る曲で、これがとても大事な曲なんです。
これすごく古典的なミュージカルの作り方で、1曲目にミュージカルのテーマとなるようなものを意味深な感じで置いておくっていうのをよくやるんですよ。最近のものでいうと、『ラ・ラ・ランド』の”Another Day of Sun”、『キャッツ』の”Jellicle Songs”なんかもそうですよね。テーマをほのめかしておくわけです。
この”Frozen Heart”も、凍てついた心だったり、”Let It Go”は愛と恐怖っていうのが対立するだとか、氷は制御できない、魔力があるんだっていうキーワードがぼんぼん出てくるんですよね。
プラス、このメロディーも1回出てくるだけじゃないんですよ。というわけで”Frozen Heart”のメロディーを聴いてみましょう。

(”Frozen Heart”/「氷の心」0:10~)

宇内アナ:あ、これか。

小室氏 :今まさに宇内さんが「あ、これか」と言ってくださった通り、ほかの曲に比べるとあんまり印象に残ってない感じなんですよ。でもこの曲って、数分後の戴冠式のメロディーと同じなんです。

(”Coronation Day”/「戴冠式の日」0:05~)

小室氏 :こういうことに気づくと、戴冠式の日もただめでたい日じゃないんだなっていうことが分かったりするんですよね。

宇多丸氏:なるほど。ちょっと不穏なというか、最初に提示されたような。

小室氏 :ていうのが、全く曲調には出てないんですけども、メロディーがどこから来てるかというのを知ると、考えさせられる。
これ聴いていただいてわかるように『スター・ウォーズ』なんかよりも、よっぽど音楽的な読み解きが難しいんですよ。
要するに『アナと雪の女王』の1は、”Frozen Heart”にどういう風に向き合うかって話なわけですよね。第一幕はエルサ視点でいうと、社会のために自分の欠点を隠すことで、逆に第二幕”Let It Go”になると、個人のために自分の欠点を隠さないってことになって、これ対局なようでいて、どちらもコミュニケーションを拒絶してるってことは変わらないんですよね。最終的に個人と社会というものが共に思いやることで社会と個人を両立させてハッピーエンドっていう形になって。愛によって”Frozen Heart”、閉じてた扉、門が開かれるというのがアナ雪の1のストーリーなんですよね。
それを読み解く上でキーとなるのが”Let It Go”なんです。

“Let It Go”とエルサの心

この”Let It Go”というのが第一幕を締めくくって第二幕に行くところで流れるんですが、社会のために自分の欠点を隠すところが、個人のために自分の欠点を隠さないというところに、どう変わっていくかというのを”Let It Go”をもとに読み解いていこうと思います。
まずはイントロとAメロ部分を聴いてみてください。

(”Let It Go”の冒頭が流れる)

小室氏 :実はこのメロディーですね、この場面より先に出てきてるんです。どこに出てきてるかというと「雪だるまつくろう」の両親が亡くなったシーンで、二人の肖像画にカーテンをかけるところがありますよね。あそこのメロディーなんです。

(「雪だるまつくろう」の1:58~)
※↓の動画では2:00~


宇内アナ:えっ、ほんとだー!

小室氏 :このメロディーは、イントロとAメロの後の伴奏で流れているので、このイントロとAメロのときにエルサの頭の中にあるのは、死んだ両親のことなんですよ。特に父親。
そして、”Let It Go”のBメロを聴いてみましょう。

(”Let It Go”の0:50~)

小室氏 :このメロディーも実はこれより前に2回も出てきてるんです。
1回目は「雪だるまつくろう」なんですが、この曲を歌ってるのは基本的にはアナですよね。でも間奏でエルサが出てきます。あそこで流れるメロディーが一緒なんです。

(「雪だるまつくろう」の0:45~)
※↓の動画の0:40~

小室氏 :ここで何をしているかというと、だんだん力が強まってきて制御できなくなって、それに対してお父さんに隠すんだ隠すんだって言われてるんですよ。特に「雪だるまつくろう」の2回目の方なんかは、“Conceal, don’t feel”って言うんですよね。これまさに”Let It Go”なんかに出てくる詞と同じです。Concealは「隠す」、で「感じるな」ということで、心を閉ざせっていう教育を受けているわけです。
そして次に出てくるのが「生まれてはじめて」。これもアナの曲なんですけど、後半にエルサが出てきますよね。あそこがまんま今のメロディーなんです。しかもちゃんと歌ってます。

(「生まれてはじめて」の2:20~)
※↓の動画の2:17~

小室氏 :なんと歌詞も一緒なんですね、基本的に。(※日本語詞は変わっています。)
この”Let It Go”のBメロっていうのは、父親に言われた「隠しなさい、感じないようにしなさい」っていうのを象徴してるわけです。
この2つの要素を解き放つ”Let It Go”っていうのがサビなんですよね。

宇多丸氏:今まで布石として、抑えて抑えてっていうエルサの気持ちを置いてるから、サビに行ったところでどーんと解放される圧倒的なカタルシスみたいな。

小室氏 :はい。ていうのが歌詞だけじゃなくて、布石があるからこそ、よりでかくなるという作りになってるわけですね。

宇多丸氏:観客も無意識にそれをキャッチしてるから感動もでかくなるというか。

小室氏 :その通りだと思います。

アナ雪はスコアもすごい

小室氏 :続いてはですね、アナ雪っていうと、歌ばっかりに注目されてしまうという問題があるんですね。なんですけども、クリストフ・ベックという方のスコアがすごいので、そのライトモティーフ作りについて説明していこうと思います。

宇多丸氏:改めてライトモティーフとは何かというと、音楽を使って過去の出来事を連想させるというのがそもそもの目的と。音楽学者イェーンスさんが使いだした言葉。ライトはドイツ語。英語でいうところのlead、「感情を導く」と。1879年にはワーグナー自身もライトモティーフという言葉を使用したということです。
このライトモティーフがどういう風に変化していくかを読み解くことでストーリーの理解にも役立つということは『スター・ウォーズ』特集のときに伺いました。
アナ雪においてはライトモティーフ使い、どんな感じなのかと。

小室氏:作り込みがなかなか難しいので聞き取れないということがありまして。例を挙げると”Frozen Heart”の後、タイトルが映されて、「エルサとアナ」という曲が流れるんですけど、その主旋律がこんなメロディーなんです。

(”Elsa and Anna”/「エルサとアナ」0:33~)

小室氏 :これはライトモティーフじゃないんですよ。これをもとに変化していくとライトモティーフになるんです。ここから作られたエルサのライトモティーフ聴いてみましょう。

(”Elsa and Anna”/「エルサとアナ」0:40~)

小室氏 :このライトモティーフがそのときのエルサの心情を表した雰囲気に変わっていくんですね。今のはアナと楽しく遊んでるところなので、すごく余裕があるんですけれど、これが追い込まれる状況になるとこういう風に変わります。

(”Elsa and Anna”/「エルサとアナ」2:17~)

小室氏 :このメロディーがおそらくアナ雪1で一番登場するメロディーですね。

宇多丸氏:エルサの精神状態が危ないぞ!っていうのがメインの引っ張ってく音だから。

小室氏 :だし、危なくない時には危なくない感じで出るので。

宇多丸氏:もとのライトモティーフもちょっとだけ不安な感じしますよね。

小室氏 :そうですね。それは魔法の怪しい感じを反映してるんだと思います。
第一幕の戴冠式で追い込まれるときにこのメロディーが鳴りまくるので、是非各自みていただければと思います。
そして先ほどと同じメロディーを変奏した別のメロディーから、今度は姉妹の思いやりのモティーフと呼べるようなメロディーが出てきます。高音の弦楽器を聴いてみてください。

(”Elsa and Anna”/「エルサとアナ」1:00~)

小室氏 :いろんなメロディーが鳴ってるんですけど上の「レ・ド・ミ・シ」っていうメロディー。これがその後重要な場面で出てきて、例えばクライマックスでアナが身を挺してエルサを悪役から守るシーンがありますよね。あそこでこの音楽が流れるんです。

(”Whiteout”/「氷原」3:55~)

小室氏 :「ミ・レ・ソ・ド・シ・ファ・ラ」みたいな感じで、さっきのメロディーを変奏したものが出てくる。
こういう感じなので、とにかく『スター・ウォーズ』より聞き取りづらいんです。
しかも、このメロディーを更に作曲上の変奏を加えていくと別のメロディーもできるんです。
姉妹の思いやりのモティーフは…(ピアノ)
登場するたびに少しずつ姿を変えていくんですが、これを長調にして(ピアノ)
音の動きを前半と後半に分けます。(ピアノ)
それぞれもう一個繰り返す数を増やすんですね。(ピアノ)
で、順番変えると…(ピアノ)
「雪だるまつくろう」のメロディになるんです。

宇多丸氏:これはどういう順番で考えてるんですかね、作り手は。

小室氏 :ロペス夫妻の歌曲が先にあるんです。クリストフ・ベックはその歌から劇伴の音楽を作ったって言ってるんですね。
そういったものを関連されながらいろんな読み方ができる豊かなスコアを書いてる。これがアナ雪1の頃からとても見事なわけなんですね。

アナ雪一作目のミュージカル映画としての大きな欠点

(中略)
で、三幕でこれがどう展開するかというと、さっき言った1の根本的な欠点、三幕にソングがないんですよ。
“Vuelie”/「ヴェリィ」っていう合唱曲が感動的なシーンで流れますけど、主要キャラクターが歌うナンバーがないんですよ。なので、三幕になると完全にミュージカルではないんです。
舞台化もしましたけど、いっぱい曲を追加することになったわけです。
2はそこがバランス良く配されてて、三幕にあたる部分にエルサとアナのものすごい泣き曲、大曲が入っているということで、ミュージカルとして改善されてるというわけなんですね。

“The Voice”の正体を巡る、『アナと雪の女王2』楽曲分析

(作品紹介略)

小室氏 :この不思議な歌声「ああ~ああ~」は英語の歌詞カードでは”The Voice”という名前になっていて、この”The Voice”が焦点のひとつではあるんですが、物語を読み解く一番大事なキーワードは”The Next Right Thing”だと思うんですよ。

宇多丸氏:アナがクライマックスに歌う曲ですね。

小室氏 :三幕でアナが自主的に歌う、最後のナンバーですよ。
これがどういう意味かというと、自分の知らない未知の他者”Unknown”に思いをどれくらい馳せられるのか、っていうのがテーマであり、それに対して、最善の方法がわからないから何もしない、のではなくて、何か行動を起こすべき、というのが一番根幹にあるのかなと個人的には思っていますし、楽曲でもそれが描かれているというのをご説明しようと思います。

精霊たちのライトモティーフ

まずライトモティーフについて触れておくと、先ほど言ったエルサのライトモティーフは2でもいっぱい出てきます。
そして、2の独自のモティーフとして、4つの精霊に対応したモティーフがある。一番わかりやすいものとして、地の精霊アースジャイアント。こんな感じです。

(”The Mist”/「霧の森」0:40~)

小室氏 :メロディーの動きっていうよりかは、民族楽器の響きが印象的なんですが、ここで音の動きとして、最初は隣り合った音にいて、そこから離れた音に飛ぶという順番になってるんですね。
それを他の精霊でも統一しているんです。風の精霊ゲイルはこんな感じです。

(”Exodus”/「安全な場所へ」0:10~)

小室氏 :そして火の精霊サラマンダー。

(”The Mist”/「霧の森」1:40~)

小室氏 :これは上下さかさまになっていて、さっきは下降系だったのが上に上がっていく形になっているんですけども、似たような音の動きで統一されているんですね。
そして最も重要なのが水の精霊ノックのライトモティーフなんですけれど…

(”The Wind”/「風の精霊」0:53~)

小室氏 :このライトモティーフは他の精霊よりも重要な扱いを受けているんです。それはなぜかというと、水の精霊なので、水の記憶のライトモティーフであり、アートハランのライトモティーフでもあるんですよ。

宇多丸氏:アートハランというのはそこに行けばすべてがわかると言われているところでしたよね。

小室氏 :魔法の川と紹介されたところですね。
水を巡る物語としては今のメロディーが要所要所で出てくるので、是非覚えてどこで出てくるのか意識して観ていただければなと思います。

“The Voice”とは結局なんだったのか

宇多丸氏:はい。そして問題の”The Voice”ですね。

小室氏 :”The Voice”もある意味ライトモティーフみたいなものなんですけども、そもそもこの”The Voice”というのはスウェーデン、特にスカンディナヴィアの伝統的な歌い方キュールニングというのが元になってるんですよ。家畜を呼ぶための、遠くに声を届けるための歌い方なんですよね。
このキュールニングの唱法というのは1にも出てきてるんです。キュールニングがどういうものかCDから抜粋したものと、1で出てきたものを聴いてみましょう。

(キュールニングの音源が流れる)

(”Elsa and Anna”/「エルサとアナ」1:40~)

小室氏 :このメロディーがどこで出てくるかというと1の序盤なんですね。アナとエルサが事故にあって、パパママ助けて、というシーンで流れるんです。
つまり、このキュールニングというのは、1の時点でエルサの心の叫びなんですよ。
2で”The Voice”が何者なのっていうのがはっきりしないまま終わりますけど、結論言うと、これはエルサの心の声なんですよ。なぜそう言えるかというと、公式で発売されている英語の絵本の中で「ついに北の地に到着すると、エルサを呼んでいた声は囁くように静かになり、彼女はそれがずっと自分の中にあったことに気づいたのでした。それは彼女の内なる平安を発見するために彼女を導いていたのです」という風に書かれているので、これは間違いなくエルサの声です。
しかもそれが1の時点でエルサの心の叫びとして使われているんですね。今の場面以外にも、例えば最後の大吹雪の中ハンスから逃げるシーンでも流れてますので探してみてください。
“The Voice”が主要な楽曲の中でどういう風に使われているかというのをご説明したいと思います。
まずですね、「魔法の川の子守唄」。この曲のクライマックスの一番の盛り上がりのところ、オーケストラのバックの伴奏音形が全部”The Voice”になってるんですよ。

(”All is Found”/「魔法の川の子守唄」1:25~)
※↓の動画では1:42~

小室氏 :今の裏のところが全部”The Voice”と同じ音の動きになっています。これはつまり、アートハランに行けば”The Voice”の秘密がわかるよっていうのを音楽で言ってるわけです。

宇多丸氏:歌詞上でも言ってるし音楽上でも言ってると。

小室氏 :そして”Into the Unknown”。これは”The Voice”に対して反応はしている、応答したりとかやり取りするし、ハモったりはするんですけども、それが自分自身であるっていうことにまだ気づかないっていう音使いになっているんですよ。

(”Into the Unknown”/「イントゥ・ジ・アンノウン」2:35~)
※↓の動画では2:48~

小室氏 :ずっと2人いるんです。エルサともうひとりっていうかたちになってるんですね。
ところがこれが”Show Yourself”っていう三幕のクライマックスになってくると、一人になって”The Voice”を歌うんですよ。

(”Show Yourself”/「みせて、あなたを」3:57~)
※↓の動画では4:15~

小室氏 :二声あったのが最後に一声になることによって、エルサが自分の声だっていうことに気づきました、っていう演出になってるわけです。
その前も母親イドゥナの声で歌ってるので、あれはお母さんの声じゃないの、って言われる方もいらっしゃるかもしれないんですけども、公式の英語の歌詞カードを見ると”Memory Iduna”と書かれているんです、記憶の中のお母さんの声なんですよね。あくまでもエルサの心の中から聴こえてくるお母さんの声なんですよ。
いろんな角度から見て、最終的に“The Voice”というのは自分自身であるということを発見して、自分の内なる声に正直になりましょうっていうのが、ここまでの音楽の使われ方なわけですよね。

“The Next Right Thing”がアナ雪2最大のテーマ

この内なる声がなぜ大事かというと、日常生活の中で感じる違和感の比喩なんですよね。
「これってパワハラじゃないの、おかしいんじゃないの」とか思っても、見ないふりすることってできるじゃないですか。それに対して、ベストなことは分からないかもしれないけど、”The Next Right Thing”、次善の策でちゃんと行動しようよっていうのが、一番の肝なわけですよ。

宇多丸氏:エルサは1作目で一見社会と適合したように見えるけれども、それって彼女が抑えた状態で、ならいられるということで。幸せに暮らしてますって言われても、彼女はずっと居心地の悪さを感じてるんじゃないかと思ったけれど、自分が本当はどうしたいんだ、っていうのがまだわかってなかったというところですかね。
それが、最後に行き場所を見つける、そしてアナたちはエルサの生き方を認めるということですもんね。

小室氏 :その通りだと思います。その結論として、行動の提案ですよね、”The Next Right Thing”をしましょうというのがこの映画の最終的なメッセージなわけですよ。
「私にできること」って翻訳されてますけど、これが映画の中でどういう形になってるかというと、まず歌の前に序盤、精霊が来てアレンデールから追い出されるシーンがあるじゃないですか。そこでトロールのパビーが来ると。パビーのセリフの中で”The Next Right Thing”ってまず出てくるんですよ。セリフで出して伏線を張って、その後魔法の森に入って森の人と会話をする中でも”The Next Right Thing”って単語が出てきて、しかもそこはメロディーの予告があるんです。

(”Iduna’s Scarf”/「イドゥナのスカーフ」3:26~)

小室氏 :という感じで、最初言葉だけ出して、今度はメロディーを予告してっていう風に、丁寧に少しずつクライマックスに向けて準備するという構成になっています。
それを踏まえて肝心の”The Next Right Thing”っていう曲、一番のポイントは歌詞で言うと”do the next right thing”のところにどんなメロディーがあてられているか。

(”The Next Right Thing”/「わたしにできること」1:18,2:52)

これもただ歌詞にメロディーをつけたのではなくて、他のメロディーを変奏してできたものなんですね。

“The Next Right Thing”のメロディーは(ピアノ)
これも前半後半に分けられます。(ピアノ)
これにもう一個音を増やすと(ピアノ)
「雪だるまつくろう」のメロディーになるんです。

“The Next Right Thing”っていうのは「雪だるまつくろう」のメロディーが2用に変えられたものだったんですね。


宇多丸氏:これは完全に意図的なものですよね。

小室氏 :と思っております。割と調も近いところなので意識的にやってると思います。
これから何がわかるかと言うと、そもそも1でエルサが閉じこもっちゃって、幼いアナが「雪だるまつくろう」ってずっと話しかけるじゃないですか。あれが”The Next Right Thing”なんですよ。
だから1の時点からずっと次善の策っていうのをやってきた、持たざる人アナの物語が、2で回収されてもう一回1に帰ってくるんですよ。

宇多丸氏:しかも社会の中での例えばマイノリティ的な存在がエルサだとしたら、それに対してそれ以外の人たちが何ができるかっていうときに、完全な理解とか無理やりずっと一緒にいるとかじゃなくても、”The Next Right Thing”として理解しようと努めたり、働きかけたりってことをまずはしてこうじゃないかみたいな、両面のメッセージが2はありますもんね。

小室氏 :ほんとに、そこを踏まえるとより泣ける、より最高です。

宇多丸氏:僕は『アナと雪の女王』は2が出たことで、より完全な感じ、ちゃんと完成したっていう感じが元々してはいたんだけど、今日のこの解説で音楽的にも補完度が高まってる感じというか。

小室氏 :そもそもディズニーの続編でスピンオフっぽくないものでちゃんとここまでできたものって珍しいんですよね。という意味でも貴重な1作がこのアナ雪2じゃないかなと思います。

宇多丸氏:しかも1作目の作り手が、あれだけの人気を得た完成度の高い作品に「でもちょっと何かこれだと不備があるんじゃないか」とちゃんと考えつくしたってことですもんね。

小室氏 :ほんとそうなんです。信じ難いほどすごいことですよね。

The Voiceは誰の声なのか?『アナ雪2』を音楽から読み解く(小室 敬幸) @gendai_biz

小室 敬幸(こむろ たかゆき、1986 – )
日本の音楽家。東京音楽大学の作曲専攻を卒業後、同大学院の音楽学研究領域を修了(研究テーマは、マイルス・デイヴィス)。これまでに作曲を池辺晋一郎氏などに師事している。
https://ontomo-mag.com/people/takayuki-komuro/

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